『いまどき真っ当』な投資家道(4)「丸木強氏、アクティビストの真の価値を説く。『もの言う株主』はなぜ嫌われる?」

投稿者: | 2017年2月28日

【10月17日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

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丸木強/まるき・つよし
株式会社ストラテジックキャピタル代表取締役。1982年、東大法学部卒。野村証券に入社し、政府・政府関係機関・地方自治体・数百社に及ぶ上場企業の資金調達や民営化企業の大型IPO等を手がける。99年に(株)M&Aコンサルティング設立に参画する。取締役副社長を経て、2006年、(株)MACアセットマネジメント代表取締役に就任。最大時で約4400億円の規模となったMAC Active Shareholder Fund(アクティビスト・ファンド)の運用責任者として、投資を実行する。2012年、アクティビスト・ファンド「ストラテジックキャピタル」を設立し、日本株投資を開始する。
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■アクティビストはなぜ「悪人」とみなされるのか

2000年代初頭に世間を騒がせた「もの言う株主」は、2006年の村上ファンド事件以降すっかり鳴りを潜めてしまった印象がある。しかし、最近密かに活動を活発化しつつあることは市場関係者しか知らないだろう。
「もの言う株主」はアクティビストと呼ばれ、日本では、「短期利益志向」「ハゲタカ」などと、すっかり悪者扱いされてしまっている。しかし、経営を改善し企業価値を高める提言を行う行為は投資家にとっては利益にこそなれ、不利益はないはずである。

本連載である「『いまどき真っ当』な投資家道」は、個人投資家と投資先企業がより良い関係を築くための企画である。双方の「真っ当」な対話なくして、緊張感のある良い関係を築くことなどできない。

なぜ日本では「もの言う株主」はこうも嫌われるのか。企業と投資家との「真っ当」な対話とは何か。この問いの答えを一番知っているのはこの人しかいない。それは、ストラテジックキャピタル代表取締役の丸木強氏だ。丸木氏の名前には聞き覚えのある方も多いかも知れない。野村證券の法人営業を経て、通称村上ファンドこと株式会社M&Aコンサルティングを村上世彰氏とともに創業、そして最後は社長としてファンド解散に伴う後処理まですべてを取り仕切ったプロ中のプロだからだ。

10月某日、東京・恵比寿の株式会社ストラテジックキャピタルを訪ねた。なぜ日本にアクディビスト活動が根付かないのか、今後の日本の株式市場はどうなるのか、また丸木さん自身の投資哲学など幅広く聞いてみたいと思ったからだ。滅多にメディアに登場しない丸木氏の顔を筆者は知らない。「怖い人だったらどうしよう」と胸の鼓動が速まる。そう、筆者は小心者なのだ。すると、身なりの整った、やや関西弁アクセントの残る、物腰の柔らかい紳士が登場した—-。(聞き手 SNF特派記者・高山泰三)

■非効率経営の要因は人材の非流動性

高山 私は、日本企業が過剰な現金資産を保有する等の非効率な経営が行われていると感じている投資家の一人です。2000年代初頭に村上ファンドが登場して人によっては、過激と思われるほど活動を始められました。投資家として純粋に「日本も変わるのでは」と期待したのをよく覚えています。しかし、結局は社会的な大きな流れにはならなかった。むしろ批判的な論調が目立ちました。

日本で「もの言う株主」は、なぜこうも悪者扱いされてしまうのでしょうか。

丸木 ひとつの仮説に過ぎませんが、日本の経営者や従業員の流動性が低いことが大きな原因ではないでしょうか。

流動性が低いから、経営者や従業員に「会社は自分たちのものであって、株主は外部の人」という意識が非常に強いのだと思います。本来ならば、株主は会社のオーナーなのですが、その感覚が希薄です。自分たち(従業員や役職者)の会社なのに、よそ者(株主)に嘴をはさまれたくないという意識が強い。

例えば、経営者の流動性が高まり、ヘッドハンティングされた人が経営を任されたとします。当然ですが、自分のパフォーマンスを最大化しようとするはずです。連動して、株主価値も上げようとする。そうすれば少なくとも株主の意見に耳を傾けるようにはなると思います。

これは従業員も同じことで、ヘッドハンティングなり中途採用なりで流動性が高まれば、「この会社はボクたちの会社だ」、「この会社で一生行くのだからよそ者は黙っていろ」といった意識は変わるでしょう。リストラを進めろという意味ではないので、そこは勘違いしないでいただきたい。

最近プロの経営者が増えつつあることには期待しています。例えばサントリーの新浪(剛史)さん、カルビーの松本(晃)さん、住生活グループの藤森(義明)さんなどです。その方々のパフォーマンスが良いということになれば、きっと世間の考えも変わって来るはずです。

■アクティビストが嫌われるふたつの理由

丸木 アクティビストが毛嫌いされる理由としては単純に「嫌なことを言うヤツだから」というのはあるでしょう。たとえ会社にとって良い提案であっても、その時の経営者にとっては耳の痛い話も多いからです。

そもそも、経営者全般にはコーポレートガバナンスに対する理解が浅い。「コーポレートガバナンスとはどういうことかご存知ですか?」と質問しても、きちんとした答弁が出来る経営者は少ないと思います。コーポレートガバナンスとコンプライアンスの話を混同している方もいるくらいです。

丸木 全部ではないが一部のマスコミによる極端な偏向報道も問題です。彼らはアクティビストのことを「短期で利益を狙う悪いヤツ」と報道する。確かに、私は経営者に対し、もし採用されれば株価が直ちに上昇する可能性の高い提案をします。しかし我々は職業として運用しているのだから、短期で仕事の成果が上がればそれにこしたことはありません。

受託者である投資家の皆さんにとっても短期で成果が上がるのは良いことです。ただ、現実はそれほど甘くないので、短期でうまくいくことは多くはありせん。

どんな職業についている人だって仕事は短期で良い成果を残したいと思っているはずです。それなのに、彼らは「他人が短期間で儲けたら面白くない」、「他人が株で儲けるのは不愉快」という人間の負の感情を煽って、アクティビストは悪いヤツだと仕立てようとしています。

株主が会社から一度に大きなキャッシュを抜いてしまって、会社を危機的な財務状況に陥らせると批判する方もおられるようですが、そのような継続性のないことをする運用者はいません。

高山 その風潮を変えて行くには、どうしたら良いでしょうか。

丸木 日本は資本主義、自由主義の国であるという意識が国民に足りないのかも知れません。正直、あまりに難しい課題です。学校できちんと金融教育をやるべきです。資本主義とは何か、株式会社とは何か等についての基礎知識が不足していると思います。

ほとんどの学生は、きちんとした金融教育を受けないまま就職します。そのまま社会人としてキャリアを積んで、何も知らないまま上場企業の取締役に納まってしまうケースがあります。

せめて取締役は最低限の金融教育を受ける機会が必要でしょうね。BDTI (公益社団法人 会社役員育成機構)のニコラス・ベネシュ氏がやっているような取締役研修などは、今後、必要性が高まってくると思います。

■スチュワードシップコードで日本はどうなる?

高山 機関投資家によるスチュワードシップコード受入れ表明が相次いでいます。来年度以降、例えば、社外取締役受入れ等による企業ガバナンスの改善も期待出来るのでしょうか。

丸木 スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードが日本でも議論されはじめたことは、大きな前進です。ですが、実質的な企業経営の改善に直ちに結びつくかというと、時間がかかるだろうと感じています。形式的に体裁を整えるだけでなく、魂が入るかどうかが大切なのです。

美しいIRをしていても、それが本当に投資家の為になる情報提供としてやっているか、それともやらなきゃいけないから仕方なくやっているかで大きく企業価値に差がつきます。社外取締役の受入れにしても、本当に株主価値向上のためにやっているのか、それとも仕方なくやっているのかでは大きな違いです。

社外取締役を本当に機能させるためには、当社が議決権行使基準で明らかにしている通り、取締役として選任されるまでの間、会社若しくはその関連会社の役職員、会社の主要な取引先の役職員又は顧問契約相手であったことがない「真正社外取締役」であるかなどのチェックが必要です。

高山 既に社外取締役がいる企業でも実は経営者のイエスマンだけであるとか、そもそも正確な情報が取締役会にあがって来ないなどの問題も指摘されています。

丸木 そういう社内体制かどうか、また、たとえ情報が上がってこなくてもきちんと追求する気概をその取締役が持っているか等も重要でしょう。

私は、投資先の社外取締役にも面談を求めることがあります。何故か叶わないこともありますが、取締役会でどのような発言を行っているのか本人に直接聞きたいからです。

また社外取締役によっては、本業を引退し、取締役報酬に生計を頼っているケースがあります。そのような状態では、社長に頭など上がりません。一社だけの社外取締役報酬だけで生計をたてられない程度の報酬水準が適正だと思います。

高山 しかし、米国ではかなり高額な報酬をもらっているケースもあります。

丸木 そうですね。本業で多額の報酬を貰っていて判断が影響されないような方への報酬であり、会社の絶対的な利益が大きいなら構わないと思いますが、相対的な問題でしょう。

とにかく、社外取締役制度ひとつとってみても、本当に機能させるためには難しい課題が多くあります。コーポレートガバナンスが短期間で一気には変わるとは思えませんが、少しずつ変わっていくと思います。

■有権者である株主は権利行使すべき

丸木 最終的に最も重要なのは株式会社の有権者である株主がきちんと権利行使をすることです。ちゃんと考えて行動する株主が増えれば、経営者も「もの言う株主」を毛嫌いしている訳にはいかないということになります。

高山 スチュワードシップコードで、議決権の行使も明確に受託者義務に含まれるようになりました。来年度から機関投資家の投票行動が大きく変わる可能性はありますか。

丸木 変わる可能性はかなり高いです。しかし、ご期待のように一気に、とまでいくかは判りません。

高山 今後は、議決権行使助言会社さんへの対応も重要になってくるはずです。

丸木 今年の株主総会では議決権行使助言会社にきちんと説明に伺わなかったのが反省点です。

というのは、大和冷機工業の時に、ある助言会社に当方からアポイントを取り、熱心に説明しました。しかし、賛否について教えて頂けなかった。疑問に感じた私は、日本デジタル研究所とアイネスにはご説明に伺うのを止めて、電話取材をお受けしただけで済ませてしまいました。

今後はつまらないこだわりは捨てて、丁寧に説明にしようと思っています。

高山 日本独自の問題ですが株主総会の集中開催の問題はどうお考えでしょうか。

丸木 どうやっても、意図的に集中させようとする会社があるので、避けようのないところがあります。手分けして出席するしかありません。

■企業買収の世界に市場原理が働いていない

高山 ところで、さくらフィナンシャルニュースではTOBの価格決定案件を多く扱っています。多発する「安すぎる価格でのTOB」についてはどうお考えですか。

丸木 結局は買収価格が安すぎることが問題だと思います。原因としては企業買収の分野に市場原理が働いていないことがあります。普通、市場原理が働けば他にオーバービッドするバイヤーが出てくるはずです。しかし、その土壌が整っていません。

M&Aの各プレーヤーが、「敵対的なものには助言出来ません」とか、「敵対的な案件にはご融資出来ません」ということもかなりあります。具体的なM&Aで最も重要なデューデリジェンスが出来ない点も大問題です。アメリカであれば、正式なオファーを取締役会にすれば、敵対的であってもデューデリジェンスをさせて貰えるらしいですが、そういう環境がないのです。

高山 日本ではレブロン義務(※)が判例で認められていません。

丸木 その通りです。取締役も株主もより高い価格の買い手に株を売るという、受託者責任(フィデューシャリー・デューティ)を果たさなくてはなりません。その前提としての他のバイヤーが出てくるためにも、一定の条件でオファーしたら、きちんとしたデューデリジェンスが出来る制度を整える必要があるでしょう。それがないから安すぎるTOBがまかり通ってしまう。

東宝不動産ぐらい明らかに不動産に価値があるならば目をつぶってオファーしても良いかも知れませんが、通常のケースではしっかりとしたデューデリジェンスが出来なければ、何が隠れた問題があると困ることになります。これでは怖くてオファー出来ません。

もうひとつの問題は親子上場です。

親会社が50.0%以上なり60.0%以上保有することに何等かの制限を課すなど、取引所の規制も必要だと思います。66.7%以上保有して、特別決議でも何でも通せるような会社では、敵対的なオーバービッドは不可能で市場原理は働きません。大株主はなんでもありになってしまいます。

残念ながら、環境を整備しない限り、安すぎるTOBがすぐになくなることはないでしょう。

高山 わかりました。次回は「なぜアクティビストを目指したのか?」と題して、丸木さんのキャリアや村上ファンド事件に隠された日本社会の問題点などを伺っていきたいと思います。【了】

(※1)BDTI 公益社団法人会社役員育成機構。コーポレートガバナンスの向上を通して日本企業および日本経済の健全な発展に寄与することを目的とし、新任取締役を対象とした研修等を活発に行っている。
(※2)レブロン義務 会社が売却の局面にある場合、例えば経営陣が会社自体の売却を決定した場合には、取締役は競売の場合のように売却価格の最大化をはかる義務があり、従って、有効的な売却の最中に敵対的買収者が現れた場合にも、両者を競わせて売却価格の最大化を図らなければならない、というもの。

たかやま・たいぞう/SFN特派記者
1976年、東京生まれ。米国ワシントン州公認会計士・文京区議会議員(民主党所属)。立教大学法学部卒、早稲田大学大学大学院修了。大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)にて中小企業向け融資業務を担当。個人投資家として数社に対する株主提案の共同提案者となり、増配や社外取締役の選任を促す等の成果を得る。文京区で監査委員等を歴任。

ストラテジックキャピタルとは:投資家のリターンの最大化のため、アクティビスト戦略を採用するファンド運営を行う。投資先企業に対し、コーポレートガバナンスの改善等による株主価値向上を促し、日本経済の発展に貢献することを目標としている。日本籍の投資運用業者としては、最も積極的なアクティビスト。今後は、海外籍Unit Trust(2014年9月設立)へ内外の投資家からの新規出資を募る予定。

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